最高裁判所第二小法廷 昭和43年(行ツ)119号 判決 1969年10月17日
上告人 河村勇
被上告人 国
訴訟代理人 川島一郎 外一名
主文
原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人竹下伝吉、同山田利輔の上告理由について。
論旨は、「上告人は本訴に於て競売裁判所の再競売命令又は再競売手続の取消を求めているものではない」と主張する。
よつて検討するのに、原審口頭弁論の結果によれば、上告人の本訴請求は、上告人は訴外松田吉男と共同して不動産を競落し、同人とともに保証金一五〇万五〇〇〇円(上告人分は七五万二五〇〇円)を納付したうえ、上告人分の競落代価残額および諸費用を期日に納付しようとしたが、松田の不履行を理由として受領を拒絶され、以後再競売手続が行なわれて、上告人自身にはなんら不履行がないにもかかわらず、上告人の納付した保証金が返還されないので、前記七五万二五〇〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日以降年五分の法定利率による金員の支払を求める、というにあることが明らかである。
したがつて、上告人の本訴請求については、その主張の事実関係が肯認されうるか否か、また、競落代価の支払が共同競落人の連帯義務に属するか否か、の点につき審理判断することを要するのであつて、原審としては、すべからく、本訴を不適法として却下した第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻すべきであつたものといわなければならない。しかるに、原審がことここに出です、競売裁判所が再競売をなすときは、前の競落人は保証のため預けた金銭の返還を求めえない(民訴法六八八条)との理由で、上告人の「本訴は、名を保証金返還請求に籍り、実は前記競売裁判所の再競売命令又は再競売手続の取消を求めるものというべきである」としたのは、上告人の訴旨を誤解した違法あるものといわざるをえず、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、民訴法四〇七条、三九六条、三八八条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判官 草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)
上告理由
上告代理人竹下伝吉、同山田利輔の上告理由
原判決は、左の如き審理不尽若しくは競売法第三二条、民事訴訟法第六八八条第五項の解釈を誤つた違法が存するのですみやかに破棄せられるべきである。
第一に上告人は本訴に於て競売裁判所の再競売命令又は再競売手続の取消を求めているものではない。
昭和四三年六月二五日付控訴代理人提出の準備書面(二)請求の原因第四項に於て「只二個以上の不動産の一括競売の場合において、その内一個の不動産のみを競落を許さないと同じ趣旨から一個の不動産の競売手続において一人の持分競買人については代金末払のため再競売手続を進め代金の支払をした他の持分競落人の競落のみを許可することはできないことは当然である」と主張しているものであつて、再競売命令又は再競売手続はやむを得ないことを認めているものである。
従つて、上告人が再競売命令又は再競売手続の取消を本訴に於いて求めていなことは明らかである。
上告人は民事訴訟法第六百八十八条第五項による「再競売ヲ為ストキハ前ノ競落人ハ競売ニ加ハルコトヲ許サス且競売ノ保証ノ為メ預ケタル金銭又ハ有価証券ノ返還ヲ求ムルコトヲ得ス」となす規定は、上告人の如く少くとも自己の持分についての競落代金及び費用を期日前に提供しているものには適用せられないものであり、上告人が共同競落人松田吉男の代金支払不履行についての連帯責任を負うべき旨を右民事訴訟法第六百八十八条第五項が規定するものではないと主張しているものである。
それを、原判決は勝手に再競売命令又は再競売手続の取消を求めるものであると理解しているものであつて、その審理不尽の事実は明らかであり、原判決の競売法第三二条、民事訴訟法第六百八十八条第五項の解釈は間違つているものである。
持分競落人(共同競落人)は他の持分競落人の代金払込みについて連帯義務はない。
従つて、他の持分競落人の競落代金について末払がある場合には、他の一方が自分の持分に関し払込みを完了して当該競落全部が不成立になつて競落許可の決定はできないが、自己の持分に対する代金払込みを有効に提供した者は、他の持分競買人の不履行を原因にして債務不履行の責を負わされることはないものである。
そして、前競売手続における競買代価と再競売手続における競買価格との不足額に対する前競買人の責任問題も上告人には生じない筈である。
従つて、競買人の代金不払による損害賠償の保証として出した保証金は、代金不払の存しない上告人に当然返還せらるべきであるというのが上告人の主張であつた。
ところが、原審は審理を尽さずして右真意を正当に解していないものであつてその違法は明瞭である。
以上